孤独な歌姫 緩やかに沈む





 今、こんな昔話を思い出しても歌を歌えるようになるわけがない。





 わかってはいても、佐倉さんの顔を思い出せば昔のことも蘇るし、彼の背中を目で追ってしまう。





 ――――結局、この日は歌を歌うことは出来ずに自宅待機を命じられてしまった。





 部屋にいてもデモテープを聞いても歌を歌える気になれない。部屋にある小型のキーボードの鍵盤を叩いてみてもなんのメロディも浮かんでこないし、イメージも湧いてこない。





 どうやらここ数日の出来事は私にとってかなりのダメージだったのかもしれない。






 人間なんて裏切るものなのに、わかっているはずなのに、どこかで信じてしまっていたんだ。食事も何も喉を通らない。




 そんな時に一通のメールが届いた。


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