孤独な歌姫 緩やかに沈む
忍耐浮上モード
頭の中では佐倉さんのことばかりが巡っているのに、側にいるのは彼だ。
申し訳なく思いつつも一人でいては私自身が壊れてしまいそうだ。自分が壊れるのを恐れて他人を巻き込むなんて最低だけど。それでも、彼は嫌な顔ひとつしなかった。
暫く沈黙の間、ずっとお酒を飲んでいたけれど、私の方が君島くんに対して悪いような気がしていてもたってもいられなくなった。
「……出ようか」
「いいんですか」
「え?」
「もっといたいんじゃないかと思って」
あまりにも彼の表情が柔らかくて一瞬戸惑った。その優しさに涙が出そうになる。こんなにも優しい、ということが嬉しいのはいつぶりだろう。
抱きしめてほしい、なんて思わない。
過剰な抱擁や言葉は嫌いだ。だから、こんなたった一言が嬉しい。
「ううん。いいの」
「そうですか」
バーを出て暫く歩いていたら、君島くんは私の手を引いた。
「こっち来て、夢羽さん」
「う、うん」
彼と私は走り出した。無我夢中で。なんだかよくわからないけど、彼が私の手を引くから。