孤独な歌姫 緩やかに沈む
――――歌い終わったばかりだというのに休む暇もなく、私は都内のAスタに向かっている。
「夢羽さん、良かったぁ、今日も」
「夢羽さん、声の調子良かったね」
「うん、なんかすごく声が伸びた感じしたし、気持ちよかった」
「夢羽、このあと、すぐにジャケ撮りだから車ん中で寝ときなさいよ」
「はぁい」
私はスポーツ飲料をゴキュと喉を鳴らして半分ほど飲んだあと、はちみつ入りののど飴を舐めて目を瞑って返事をした。車の中で仮眠をとったあとにすぐ仕事なんていつものことだ。そしてやっぱり帰りはてっぺんを過ぎる。こんな生活じゃ伶くんの言うように肌を大事にするなんて到底無理だわ、と諦めつつ少ない休みの日にはエステに通うのはせめてもの悪あがきだ。
車の細かな振動は眠りを誘ってくれる。振動以外は静かな車内で眠るのにももう慣れた。車が走り出してすぐに私は眠りについた。でも、それもあっという間。ゆさゆさと肩を揺さぶられて目を開ける。そこにはいつもの伶くんが。
「夢羽さん、起きてくださいよ」
「……んー……」
ああ、今日はいつもより疲れてる。頭は起きているのに瞼が開いてくれなかった。
「夢羽さん、起きないとチューしちゃうよ」
「ん?!」
勿論、その言葉で私は飛び起きる。なかなか開けることのできなかった瞼も一瞬のうちに開いた。
「あは、起きた。冗談だよ、夢羽さん」