孤独な歌姫 緩やかに沈む
瞬きもできないほどに音符ができて手が追いついていかないほどに、音が溢れてくる。
「やばい、楽しい」
フフ、と笑いながら、できた曲。
なんだ、これ。自信しかない。メロディと詩を眺めると私は呟いた。
時間を忘れて曲を産みだすことに夢中になった。
気づけば、頭はボサボサ。スマホの赤いランプが着信があったのを物語っている。でも、そんなものなど気にならないほどに、今は曲の完成が嬉しすぎる。
「片恋、卒業おめでとう」
マジマジとそれを眺めてまた呟く。
「海の底から浮上してくるダイバーみたいだなぁ、この歌」
この歌がいい歌かどうかはわからない。でも、私自身が脱皮できたのは確かだと思う。一歩前進したような。そしてはたと気づいて頬杖をついていた身体を勢いよく正した。
「私、歌えてんじゃん」
コホン、と咳払いをひとつして。あのレコーディングを失敗した歌をもう一度奏でてみても、やっぱり音はとれてた。
「おお。歌えてる……」
驚く自分ににやけてしまう。なんだか枷が外れたな。
そして君島くんを思い出した。彼は不思議な子だ。
魔法の薬みたい。なんでも治してしまう魔法の薬。今度会ったら、お礼を言わなくては。