孤独な歌姫 緩やかに沈む

 目を丸くした私は固まったまま、意味深の笑顔を残して車を出て行く伶くんを見送る。

 なんだ、なんだったんだ。

 伶くん、乙女をからかうんじゃないわよ!
 動揺……なんてしないよ!
 どっかの小娘じゃあるまいし! 




 私は慌てて鞄からメガネを取り出す。うまくかけることができず、つい声が漏れる。




「んんーッ……」
 イライラは募るし、一人でメガネをガチャガチャやっていて。そしてはたと気づく。




「なんだ、逆じゃん」




 ――――スタジオに入り、楽屋へ向かう。当然、伶くんも。




「あれ、どうしたんですか、夢羽さん。早くメイクしないと間に合わないですよ! また時間ギリですから!」




 カオリンは私の横に並んで私を急かす。

「わかってるよ!」

 あ……! お、怒ってない、怒ってない! でも、私の少し大きかった声にカオリンは大きな目をくりくりさせて固まってしまった。




「……カオリン、行くよ。遅れるし」

「は、はい!」

 それでも、無視せずカオリンの立ち止まったところまで戻って優しく背中を押すと元気よく返事が返ってきた。





 昔なんて持て囃されて忙しすぎてスタッフを気遣うことなんて全くできなかったけど、スタッフあってこその自分なんだって漸く15年も歌ってきてやっとわかってきた。




 走って楽屋に向かう彼女はきっと私の衣装の準備をする。




 最高の衣装を、ね。


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