レンタルな関係。
 
車は街を抜けて、どんどん山へ入っていく。

窓の外を流れる景色に緑の色が濃くなって。


窓を開けると、都会とは全然違う澄んだ空気が流れ込んできた。

旅行に来てるんだ、という実感が増してきて、気持ちが軽くなる。


隣りの流川をチラリと見ると、表情がいつもより柔らかくなっていて。

木漏れ日が、その横顔をなめらかに通り過ぎていく。


髪に反射する光が綺麗で、つい見とれていると。

ふいに流川が顔をむけた。


「なんだよ」


「えっ、あ、いや、緑…そう、緑が気持ちいいなって」


「お前、眠いんじゃねーの?」


「え?」


「とろんとしてるぞ、目が」


「そ、そう?」


流川の横顔に見とれてはいたけれど、確かに、少し眠い。

向こうでゆっくりしようってことになっていたので、今朝は早起きだったのだ。

 
しかも私は、夜中まで荷造りに時間がかかってしまって。

昨夜はほとんど寝れてなかった。


助手席を見ると、麻紀の首は信じられない角度で折れている。

し、死んでないよね…?


車の揺れに合わせて、バカみたいに揺れる頭を眺めていると。


「少し寝てろ」


流川が微笑んで。


私の頭を撫でた。


ドキ……


跳ねる心臓に戸惑っていれば。


「でっけーゴミ」


流川の手に、長い糸くず。

あ…ああ、ゴミね、ゴミついてたのね、私の頭。


流川はそれを指先で丸めて、ジーンズのポケットに入れた。

窓から捨てないところが、ちょっと、いい。

なんて思っていると。


「運転代わりましょうか?」


流川が裕二くんに声をかけた。


「え? 流川直人、運転できるの?」


私が驚いて聞くと、


「え? マジで? じゃ、お願いしていい?」


前から裕二くんの言葉が返ってきて。


「いいですよ」


返事した流川が私を見ながら、


「運転くらいできるわ、アホ。俺だぞ」


いつもの俺様セリフをはいて。

カエルを私にあずけると、止まった車から降りた。

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