レンタルな関係。

お互い、瞳は開いたまま、


序々につまる、わずかな距離。



ついに流川の右肘が折れて。


軽く重なる、上半身。



高鳴る心音が、直接流川に届いてしまいそうで。


慌てて目をそらしたけれど。



ふと、流川の左手が頬に触れて。


びく…っと肩が震える。



視線を戻すと、戸惑うくらい近い、流川の顔。


鼻先が触れそうなほどの距離に、思わず息をのむ。



しばらく見つめ合ったまま、


止まる時間――



「逃げろよ…」




かすれた声で。


願うようにささやく流川は。


それでも動けない私を切なげに見つめている。



お互い、どうしたらいいのか、分からなくなっているみたいに…



触れている胸と胸だけが、言葉の代わりに高く波打っていた。




けれど―――



「……っ」




降りてきた流川の体温が、左の首筋に埋められて。


緊張と熱が、一気にカラダを突き抜ける。



「……っん」



たまらず動かした手で、流川の胸を押すけれど。


首筋をなぞり始めたその唇が、腕のチカラを奪ってしまう。



「や…」



やめて、が言えなくて。


なんでだろう…


私…イヤじゃない。



身をよじると、

 
流川の腕が、背中に回された。



流川の胸に添えた私の両手だけが、ふたりの距離をはばんでいる。


首筋を離れた流川の唇は。

 

「なんで逃げねーんだよ…」



切ない声を絞り出す。



「わかんない…」



それしか言えない私を包みながら、ただ真っ直ぐに見つめて。


長いまつげが、微かに震えている。


再びゆっくりと近づく流川の顔。



少しづつ、まぶたが伏せられていって。


首筋じゃなく、正面に降りてきた鼻先が静かに触れて…



わずかなためらいと…


流川の鼓動が、手のひらに響く。



「流川…」



唇が…



触れようとした、そのとき―――

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