レンタルな関係。

「は…離して」


流川から視線をそらして横をむく。


私…仲居さんが来なかったら、あのまま…


「ここで抵抗か」


ふいに流川の声が降ってくる。


やっとタイミングがつかめたみたいに、その呼吸にも安堵がみられて。


背中に回っていた腕が抜かれた。


「だっ、ダメですっ、私のせいで中途半端なんてっ!」


叫ぶ仲居さん。


「続行してくださいっ!」


這いつくばって、後ずさりするものの…足袋が畳ですべって、うまく進めてない…


「続行って言われてもなぁ」


苦笑して仲居さんを眺めている流川は、


「そこに居られちゃ、確かに集中できないわ」


言って。


「それに今、拒否されたしな。無理強いする趣味は、俺にはない」


私を見おろす。


「あ…」


なんて言えばいいんだろう。


言葉に詰まる。


「あ…あの…」


「良かったな、助け船が入って」


流川は、まるで自分に言い聞かすみたいにつぶやいて。


「でも、このくらいはさせろ」


「…?」


寝転がったまま首をかしげる私の唇…のギリギリの頬にキスをした。


わずかに口角同士が触れて。


顔を上げた流川は、鼻先と、おでこにもキスを落とす。


「うわぁ…す…ステキ…」


声を出したのは仲居さん。


ぽやん、としちゃってます。


「いいモノ見せていただいて……あ! すみませんっ、見ちゃいました…」


ぷっと笑って、何事もなかったように立ち上がった流川は。


「俺もコイツも、嫌いなものないから」


ようやく正座ができたらしい仲居さんに言う。


「は…はい、わかりましたっ」


立ち上がった仲居さんは、フラフラしながら何とか部屋をあとにした。


直後。


『ドドドンッガッ!』


麻紀たちの部屋のほうから、さっきと同じ音が響いてきて…


「もしかして…」


「こりゃ、もっとスゴいの見ちゃったな」


クスクス笑う流川の顔を見上げながら。


ぼう…っとしていた私も。


つられて笑った。

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