レンタルな関係。

「少し…って」

「ダメか?」

「…ダメ…じゃないけど」

「じゃ、頼む」


また目を閉じた流川が、私の手首を放す。

ふうっと息を吐いて、気持ち良さそうな流川の顔。

でもやっぱり少し赤くって。

平気だなんて言っておきながら、飲みすぎたんだろう。
 
麻紀の倍は飲んでたはずだもん。


「流川」

「ん?」

「ここで寝ゲ○しないでよ」


からかってやる。


「…するか、ボケ」

「ボケとか言うと、頭ふりおとすよ」

「お前と違うから、戻したりなんてしねーの、俺は」

「口の減らないヤツ」

「ふふん」


鼻先で笑って、でもちょっと苦しそう。

 
気づいたら自然に流川の髪を撫でていた。

黒くて、意外に柔らかい髪の毛。

空いてる片手をわき腹に添えると、流川の手のひらが私の手を包んだ。


まあ、今日の流川は機転もきいたし、麻紀の相手もしてくれたし。

祐二くんの運転も代わってくれたり、いろいろ仕事してくれたし。

オネエマンの言うこと…案外ウソばっかりでもないのかも。

 
特別だぞ。特別。

正座の足がしびれてきたけどさ。

命令じゃなくて、お願いだからこんなことしてやってるんだからね。


「流川」


髪を撫でる手を止めて、そっと声をかける。

けれど返事はなくて。

代わりに静かな寝息が聞こえてきた。

 
しばらく眺めていると。


「ん…カエル…」


カエルって。

ここで言う寝言がカエルかよ。


「可愛くないよ、あんたなんか…」


くす…と笑って、ゆっくり頭をおろしてやって。

私は流川の残した水を飲んでから、もう一回お風呂に向かった。


緊張でかいた汗と、

胸の奥につっかえてる…

くすぐったい気持ちを洗い流すために。


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