レンタルな関係。
脱衣所で扇風機にあたって、十分に汗をひかせる。
部屋に戻る途中の自販機で、林檎ジュースを買った。
「爆睡してるよな…ま、一応」
流川の分も買って、部屋までの廊下を歩く。
麻紀、あれからちゃんと寝たのかな?
…と考えてしまったのが、悪かった。
「こ…怖いかも」
温泉につかりながら話した幽霊話。
思い出してしまって。
長く続く廊下には、夜だから人気がなく。
ほんのりと弱い明かりに照らされてるだけの畳廊下が、随分長く感じられる。
自分の足音しか響いてないけれど、思い出してしまうと…誰かにつけられてるような感覚に陥ってしまって。
何度も後ろを振り返る。
「ひ…ひぇ」
小走りして、部屋へ急ぐ。
麻紀のいう幽霊は、私みたいな女を追ってくるようなタイプじゃないらしいけど。
イケメン好きらしいし。
むしろ、今ひとりでいる流川をねらって入り込んでるかもしれないんだよね?
「う。戻らないほうがいいのか?」
混乱する思考。
もうっ、麻紀が幽霊の話なんてするからっ。
アホみたいなこと考えちゃうじゃん。
林檎ジュースを抱えて、とにかく部屋まで急いだ。
ふすまを開けると、
「あれ? 起きてたの?」
座椅子に寄りかかって、カエルを抱えながらぼんやりテレビを見てる流川。
「どこ行ってたんだよ、お前」
少し寝て、ちょっとスッキリしたのか、顔の赤さは引いている。
「あ、お風呂。っていうか、大丈夫なの?」
「なにが」
「なにがって、酔い、引いたの?」
「ああ、ちょっと寝たらだいぶな」
「そ。良かった。あ、これ、はい。林檎ジュース」
「お、気が利くじゃん」
受け取ったジュースをプシリと弾いた流川は、一気に飲み干してしまった。
私は。
そんな姿を眺めながら。
「ねえ…」
「なんだ」
「誰か来なかった?」
「は?」
「女の人とか」
「女? なに言ってんのお前」