レンタルな関係。
 
山のなかにある旅館は、部屋のなかの物音が消えてしまうと、ホントに静かで。


私と流川が立てる布団のこすれる音が、時折、小さく耳に入るだけだ。


カエルを抱きしめっぱなしだった腕が疲れてきて。


チカラを緩める。


5分…10分…経ったかな。


寝付けなくて、時間の感覚もわからない。



けど。


ほんの少し緩んだ緊張で、外の風が強まっていることに気づいた。


木々が揺れて、葉っぱがガサガサと擦れる音がする。

 

ヒュー……

 

風の音が、何かの声みたいに聞こえて。


慣れてきた目が、暗がりのなかにぼんやりと物の形を浮かび上がらせる。



どきどきどき…



ヤバイ…


別の意味で緊張してきた…



カエルの頭越しに見えるベランダの窓。


あ。カーテン、閉めてなかった。


弱い月明かりが窓を染めている。


強い風に、カタカタと揺れて。


ゆらゆら、光の加減が変化する。



ゾクっ……
 

ううう…ダメだ。


幽霊、思い出した。



カエルを抱きしめなおす。


そのまま急いで寝返りを打って、窓に背をむけた。



数十センチ先の白い布団に、流川の影。


浴衣の背中が見えている。

 

ほっ…


あっち向いてたんだ、良かった。


目をギラギラさせてこっち見てたらどうしようかと思った…



…なんて。


一瞬思ってしまったけれど。


背を向けられてると、このわずかな距離も何だか…遠い。



流川の背中を眺めていると。

 

ガタガタガタッ!!!

 

ひと際強い風が吹いて、窓ガラスが音を立てた。


 
こ…怖いよぉ…

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