レンタルな関係。
 次の日の朝。

 バイトのあった私も要くんと一緒に起きて。


 要くんのために、朝ごはんを用意しようと冷蔵庫をあける。


「あ」


 流川のぶんに残しておいた素麺。

 入れっ放しで。


「……」


 私はそれを、ゴミ袋に入れた。

 もう、流川のことなんて、気にしなくていいんだ。


 久しぶりに味噌汁を作って。

 あったかいご飯を準備する。

 冷蔵庫のなかのもので、おかずになるようなものを作って。


「やっぱり唯衣の作るメシは美味いな」


 おいしそうに食べてくれる要くんを床に座って眺める。

 ……幸せ。

 うん、幸せ。


「じゃ、俺先に行くから。また夜な」

「うん」


 玄関先で見送る要くんの姿。


「要くん…」

「ん?」

「あの…」


 確かめたくて。


「き…」

「き?」


 何を?


「き…キス…」

「キス?」


 要くんの気持ち?


「キス…したい」

「はは。何だよ、どうした?」


 それとも…

 
「キスして」

「ん。おいで」


 要くんに抱きついて、見上げるその顔。

 大好きな人。

 私の彼氏。


 長いキス。

 包んでくれる胸は、温かくて。

 溶けそうになる。


「じゃ、行ってくるな」

「うん。いってらっしゃい」


 手を振って外に出て行く要くんを見送りながら、

 
「やっぱり…大好き」


 要くんへの想いを。

 確かめた。


 キスマークの残る胸の部分を、こぶしでぎゅっと押しつぶして。

 
 部屋に戻った私は。

 携帯に残る流川の番号を。


 ―――消した







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