レンタルな関係。

◆して欲しい

 
 帰り道。

 週末の歩道は、まだお昼前だけれど混雑気味で。


 背の高い流川が少し前を歩いてくれてるおかげで、ちょっとした通り道が出来上がっていて。

 私は、人を交わしながら、なんとか上手く歩けている。

 
 なかなか便利な男だ。

 
 時々、チラリと後ろを振り返る流川は。

 斜め後ろから私がついてきていることを確認すると、また前をむいて…みたいな。

 そんなことを繰り返していて。

 私はそのたびに流川を見上げて、首をかしげる。

 
 …ああ、気づかってくれてるのか。


 そう気づくまで、5分くらいかかってしまった。


 
 それでも、駅前に近づくにつれ、人の波は大きさと速度を増してきて。

 油断すると、逆方向に押し戻されそうになってしまう。


「ととと…」


 思わずつかみそうになる、流川の腕。


 イケナイイケナイ。

 そんなことをしたら、またからかわれるし。

 伸ばした手を引っ込めて、ひたすら流川のあとに続く。

 

 夏の太陽はすでに高めの位置に昇っていて。

 ビルとアスファルトと自動車なんかに容赦なく降りそそぎ。

 
 流川の黒髪も光に濡れていて、その向こうに飛行機雲が伸びている。

 青い空に、スー…と一本の糸みたいに。

 どこかにむかって、真っ直ぐに。

 
 誰かさんみたいだ。



 前を行く流川の背中はシャンとして、人の波にもブレなくて。

 
 この背中に、昨日、乗ったんだよな…

 
 そう思うと少し恥ずかしくなり。

 でも、たのもしく。

 なぜか、好ましく。

 こうしてついて行けば間違いないような、そんな気にさえなってきて。


 不思議。



 

 
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