レンタルな関係。
その背中を見ながら、ぼんやり歩く私。
左肩が前から来た人にぶつかってしまって。
「わわ…」
一歩後退。
前を行く流川との距離が少し広がる。
サンダルの足がよろめいて。
「ま、待って」
慌てて伸ばした手は、
流川の黒いTシャツの裾をむんずとつかんでしまった。
一瞬、ピンと張った流川のTシャツ。
ん? という顔で振り返った流川は。
「……」
つかまれてる自分のTシャツと、
一本足で何とか体勢を維持してる私を、交互にすばやくチェック。
しまった…
来るぞ。
「とろい」とか「ドンくさい」とか「鈍い」とか、何とか。
上目づかいで、流川の唇が開くのを待っていると。
「あ…」
予想外。
私に向かってきたのは、言葉じゃなくて。
ジーンズのポケットから出てきた、大きな手。
「伸びるだろ、バカ」
…やっぱり言われたけど。
きゅっ… と柔らかく。
私の右手は包まれた。
あったかくて、力強くて。
筋張った、流川の左手。
「ちゃんと歩け」
その手に、
ぐっ、とチカラが加わって。
うながされるように。
私のカラダは、再び前進開始。
前を向いた流川は、そのあとは何も言わず。
しらっとした顔で、歩いてる。
私を引っ張って。
全身で、夏の光を受け止めながら。