レンタルな関係。

 あくびのせいで、流川の目の端には涙がたまってて。

 つないでないほうの手で、しきりに目をこすっている。


 でっかいくせに。

 なぜか幼く見えて。


 なのに。

 手を引いてくれてるこの状況は。

 たのもしい男子。


 よくわかんないな、ホント。流川って。

 俺様で私の前に登場したくせに。

 幼いのか、優しいのか、

 もしかしたら完全にマイペースなだけなのか。


 どっちにしても。

 今の、この状況の流川は。


 “素”


 って感じで。


 これはこれで。


 なんか、いいかも。



「なんだよ」


 横顔を見上げながら。

 ニヤニヤしていた私に気づいた流川は。


「暑さでやられたか。顔が気持ち悪いぞ、お前」

「……」

「それとも俺に見惚れてんのか」

「……」

「もっと可愛い顔で見ろよ、だったら」

「……」


 またこの調子。

 ま、いい。

 慣れた。

 この言い方にも、言いつきにも。

 

 流川の暴言のなかには、

 トゲがあるわけじゃない。


 なんだかんだと私に文句を言いながら、

 その言葉のあとに続く行動は。

 言葉とは、逆だということに気づいたから。

 意外と、優しいことを知ったから。


 実はそれが。

 流川の本心だったりすることに。


 ちょっと気づいちゃったから。


「頭、熱そうだな。倒れんなよ、こんなとこで」


 ほらね。


 直射日光をガンガンに浴びた私の頭を眺めながら。

 自分だって、キラキラと黒髪を照からせているくせに。

 背中だって、少し汗ばんでたくせに。





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