レンタルな関係。
 
 俺の番号を聞きだすために、オネエマンの店に一人で行くことができたせいか。

 それとも、一つの恋愛に自分で答えを出すことができたせいか。

 はたまた、自分でも予想していなかっただろうスピードで、運転免許なんて取れてしまったせいなのか。


 二ヶ月前と比べると、随分と行動的になってきたコイツは。

 今日の温泉旅行の段取りも、自分ですべて組んだらしい。

 こっちの予定も聞かずに勝手に宿を予約して、レンタカーまで手配していたというわけだ。


「私が運転する!」


 意気込んで車に乗り込もうとしたコイツを制しておいて良かったと、

 今のこの状況を見てつくづく思う。


 交通量の多い道でこの運転をされたらたまったもんじゃねぇ…

 
 山道に入れば、後続の車もすれ違う車も少なくなるだろうと、

 
「運転させろっ! 流川直人っ!」


 ぎゃあぎゃあわめくのがうるさくて、数キロ前から渋々運転を代わってやったのだが。



「なんでオートマ車借りなかったんだよ」

「だってせっかくマニュアルで取ったんだもん。挑戦したいじゃん」

「お前は俺を殺す気か」


 ガクンッと揺れる車が再び動き出す。


「やっぱり降りろ。俺が運転するから」

「ダメだって」

「あの橋から落ちたらどうすんだよ」

「大丈夫だって」

「なんでそんなにムキになってんだよ、今日」

「いいのっ」


 ハンドルにしがみつきながら、鼻息荒げて。


 この気合いは何なのか。

 
 旅館の予約から、運転やら、なんやら。

 とにかく今日は仕切りたいらしい。


 危なっかしくて仕方ないが、赤い顔して奮闘する姿を、

 こうして隣りで見てるっていうのも、まあいいもんだ。


 自然と口元が緩む自分に、呆れてしまうが。





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