レンタルな関係。

「じゃーな」


「え?」


「荷物は明日にでも取りに来るわ」


「へ?」


 
そう言って、くるりと私に背を向けた流川は、そのまま何も持たずに玄関へ歩いていってしまう。

 
 
は?

 
いきなりすぎやしませんか?

 
一応、あとを追いかけて私はその背中に呼びかけた。



「ちょ、ちょっと…」


「なんだよ、まだ何か言いたいことあんのか?」


 
振り返った流川は、眉間に皺を寄せていて。

 
なんだか、ちょっと怖くなる。



「いや…」


「あっそ。じゃ」


「あ、あの…」


 
もう一度流川が振り返って。



「なに?」


 
恐ろしくぼそりと呟いて。



「いや、その、突然だな…て」


「寂しいか?」


「は?」


「俺の下着で、遊ぶなよ」


「…は?」


 
ふっと鼻先で笑った流川は、玄関を開けて、振り向かずに出ていってしまった。


 
残された私は唖然として、しばらくその場に立ち尽くしたままで。

 
とんとんとん……と、流川の靴がたてる階段の音を聞きながら、まばたきばかりを繰り返していた。



なんなの、アイツ。

 
いろんなことがいきなりすぎて、対処に困る。

 
靴音が遠ざかって、静かになって。

 
急いでベランダに駆け寄って外を見渡してみたけれど。

 
真っ暗な道には、街灯の心細い灯りしか見えなくて。

 
アイツの姿は、どこにも見つからなかった。


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