あなたのために。-光と影-
私の手は奴の手を引き剥がそうと、必死に抗う。
私の必死さとは裏腹に、奴の手はアッサリと首から離れた。
私はストンと地面に落ちる。
「……げほっ…げほっ…!」
死にそうなほどに激しい咳が私を襲う。
急に酸素が入ってきて、上手く呼吸ができない。
そんな私に構わず、奴は私の胸倉を掴んだ。
至近距離で奴の鋭い目に私が映る。
「『大切なものを守って死ぬなら、誇れ。
だが大切なものを残して死ぬなら、恨まれろ』
小さい頃から耳が腐るほど言われてきた言葉だ」
奴はこれしか言わなかったけど、言いたいことがすぐに分かった。
私は大切なものを残して死のうとした。
それは恨まれて当然のことだと、そう言いたいんでしょ?
でも私はそれに気付いて大切な人のために生きようと、奴の手を引き剥がそうとした。
奴はそれに気付いたから、手を離した。
あなたはまだ、私を生かしてくれるの…?
「恨まれる前に気付いたことは運が良かったと思え。
安心しろ。
大切なものも何もかもなくなったら、今度こそ俺が殺してやる。
だからそれまでお前は、俺の手の届く範囲で生きろ」
ちゅ、
唇に柔らかなものが触れ、艶めいたリップ音が倉庫に小さく響いた。