あなたのために。-光と影-
足は自分で拭き、奴が用意してくれた黒いワイシャツを着る。
奴がワイシャツのボタンを留めてくれているが、腑に落ちない顔をしている。
「そんなに理由が分からないなら、教えてあげる。
怪我人を犯そうとするから、頭にタンコブが出来るのよ」
理由を教えてあげても、奴の顔は変わらない。
どうやら頭に拳骨を食らわせたことが、よっぽど気に食わないらしい。
「…楓。小夜さんは目覚めました…」
ドアが壊れたことによって開放的になった部屋に、白兎さんと陽くんが顔を出す。
でもすぐに目の前の光景に立ち尽くす。
私はベッドの上で楽にしていて、奴が頭にタンコブを作ってワイシャツのボタンを留めている、という光景。
二人から見たらきっと『関東一の極道一家の若頭が女の尻に敷かれている』といったところだろうか。
「「……ブッ!」」
私の予想が当たったのか、二人は同時に吹き出した。
「楓が……っ、頭にタンコブ作って…ブッ!服のボタン留めてる……!」
「…アハハハハッ!
あの楓が、小夜ちゃんの尻に敷かれてる……ギャハハハハハッ…!」
白兎さん、陽くんの順でそれぞれこの光景の感想を述べた。
奴の額には切れそうな勢いで血管が浮き出ている。
そしてワイシャツのボタンを留め終わると、即座に二人を蹴散らした。
私は痛々しい音を聞きながら、ベッドの中央に移動した。