あなたのために。-光と影-
【side 白兎】
女を怖いと思ったのは、小夜さんで二人目だ。
「…あの女の名前は、真姫。
小夜さんと同じキャバクラ胡蝶で働くNo.2です。
あれは本件とは無関係のようで、ただ楓を自分のものにしたかっただけでした。
ですが賊に加担したのは確か。
楓の大事な小夜さんも傷つけましたから胡蝶に出入り禁止、二度と人前に出られないように顔に消えない傷をつけさせました」
罰は小夜さんがいない時に言った方が良かったかもしれない。
これはさすがに彼女も残酷な末路だと思うだろう。
私の考えとは裏腹に、彼女の表情は何一つ変わらない。
そして何も言わない彼女が怖い。
「…あの…やり過ぎだったでしょう、か?」
怖くてつい出てしまった言葉。
極道のくせにやり過ぎもクソもないのに。
いつもこれくらい普通にやってきたはずなのに。
私の作った軽食を食べさせ終えた楓が小夜さんに近付き、小夜さんを後ろから抱き締めた。
「…どうだ、小夜」
いつもは自分の機嫌で判断する楓が、小夜さんに答えを聞いている。
これにはさすがに私と陽も驚いてしまう。
楓は他人に意見を尋ねることは、組長と姐さんくらいしかいない。
小夜さんはチラッと楓を睨んで、私を真っ直ぐに見た。
「…私の手で出来なかったのは残念だけど、清々したから別に?
これでNo.1の座に安心していられそうだし
…てかさりげなく抱きつかないで、蓮条楓」
普通に言った。
『自分の手で出来なかったのは残念』だと。
それはつまり『自分の手で始末出来ればもっと良かった』って言いたいんだろ?
なんなんだ、この女(ひと)は。
小夜さんの答えが良かったのか、引き剥がされようとしても楓は更にキツく小夜さんに抱きついている。
小夜さんは普通に怒って、楓を離そうとしている。
もうあの女のことなんかどうでもいいと言うかのように。