あなたのために。-光と影-
再会
「…ねぇ、ちょっと。これだと化粧しづらいんだけど」
「だったら行かなきゃいいだろ」
「その選択肢はまずない」
私は今外に出るためにいつものように化粧をしている。
とはいっても仕事の時のケバい化粧ではなく、ナチュラルメイク。
ただいつもと違うのは蓮条楓(奴)が私を後ろから抱き締めて、首筋に顔を埋めていること。
蓮条楓の正妻になるという契約が完了してしまったが、負けず嫌いな私はすぐに条件を出した。
『あなたの正妻にでも愛人にでもなるから、弥生と篠が入院してる病院に行かせて。あと環にも会わせて』
この条件が飲めないのなら私はあなたの妻にはならない。
そう言ってやると奴は困ったように眉をハの字にした。
その顔を見れただけで十分満足した。
こうして私はこれから白兎が調べてくれた弥生と篠がいる病院に行くところだ。
だがこの男は最後まで行かせようとしてくれない。
「別にわざわざ行かなくてもいいだろ。
命に別状はねぇって分かってんだから」
「ちゃんと顔を見て話をしたいんだって何度言えば分かるわけ?
そんなに引き止めるならあの話、無しにしてもいいんだからね」
そう言えば奴は言い淀む。
私達のやり取りを見て白兎は必死に笑いを堪えているのが鏡越しから見えた。
それを奴も鏡越しから見たようで、私のもとから離れて白兎をストレス発散のサンドバッグにしていた。
私は白兎に心の中で合掌した。