あなたのために。-光と影-
我に返った時には既に私は奴に唇を奪われていた。
そのキスは長くも深くもなく、私の唇に触れてすぐ離れた。
そして奴はふっと笑って私の唇を親指で拭う。
「…お帰りのキスはお前からしろよ」
「……っ!だ、誰がするか…!」
不意打ちが悔しくて、奴の笑った顔がまたかっこよく見えてしまって全身が熱くなる。
熱い顔を腕で隠すようにして私は早足で歩き出した。
「お待ちください若奥様」といきなり私を若奥様と呼ぶ風間さんを無視して歩き続ける。
奴の笑い声が聞こえたのは気のせいにしておこう。
奴のキャラがおかしくなったのもあるけど、何より自分が一番おかしくなってる。
今までこんなことされてもなんとも思わなかったのに、奴の一つ一つの仕草、表情に見惚れてる。
これは、何?
この異常なくらいに胸がドキドキするのは何故?
私はこの気持ちを知らない。