あなたのために。-光と影-
冬樹兄さん。
この名前を聞いた瞬間、冷たい風が吹いたかのように体が震えた。
顔を思い出したくも、名前を呼びたくもない。
私を見ず知らずの男たちの性欲処理として利用して、多額の金をもらって親の借金を返そうとした最低の兄。
兄なんて思いたくもない。
日向にも兄なんて呼ばなくていいって言ってるのに、未だにあいつのことを『冬樹兄さん』って呼んでる。
あいつのせいで、日向の体も衰弱してしまった。
なのに『兄さん』なんて…日向は優しすぎるんだよ。
「…大丈夫だよ、日向。
あいつが来たら追い返すように看護師さんに伝えてあるから。
だからあいつがここに来ることはないよ」
椅子から立ち上がって日向のいるベッドに座り、髪を整えるように日向の頭を優しく撫でる。
日向は少し安心したように頷いて、私の肩に頭を預けた。
密着した日向の体は小刻みに震えていた。
『兄さん』と呼んでいても体は素直に怖がっている。
守らないと。
この小さくて、でも暖かい私の一筋の光を。