あなたのために。-光と影-




冬樹兄さん。




この名前を聞いた瞬間、冷たい風が吹いたかのように体が震えた。




顔を思い出したくも、名前を呼びたくもない。




私を見ず知らずの男たちの性欲処理として利用して、多額の金をもらって親の借金を返そうとした最低の兄。




兄なんて思いたくもない。
日向にも兄なんて呼ばなくていいって言ってるのに、未だにあいつのことを『冬樹兄さん』って呼んでる。




あいつのせいで、日向の体も衰弱してしまった。




なのに『兄さん』なんて…日向は優しすぎるんだよ。




「…大丈夫だよ、日向。
あいつが来たら追い返すように看護師さんに伝えてあるから。
だからあいつがここに来ることはないよ」




椅子から立ち上がって日向のいるベッドに座り、髪を整えるように日向の頭を優しく撫でる。




日向は少し安心したように頷いて、私の肩に頭を預けた。




密着した日向の体は小刻みに震えていた。




『兄さん』と呼んでいても体は素直に怖がっている。




守らないと。
この小さくて、でも暖かい私の一筋の光を。




< 149 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop