あなたのために。-光と影-
「…そういえば小夜ちゃんが来る少し前に、私の病室に訪ねてきた人がいたの」
「…え?」
思い出したように言った日向を私は目を丸くして見つめた。
さっき日向は『あいつは来てない』と言っていた。
環は私と一緒に来たし、その他にこの病室に来るといったら篠と弥生くらい。
でも篠と弥生は別の病院にまだ入院してる。
じゃあ、いったい誰が日向のところに……?
「…その人ね、小夜ちゃんの夫になるって言ってたんだよ。
小夜ちゃんもう結婚することにしたの?
もっと早く教えてくれてもよかったのに。
私、小夜ちゃんの口からその報告聞きたかったな」
私の夫になる人…?
そんなの一人しかいない。
なんで、なんで日向のところに来てるわけ…?
日向が入院してる病院もここの病室のことも話してないのに。
話したのは双子の妹がいることだけなのに。
一体……
「その人は…日向に何を話した、の…?」
声が震えてうまく出せない。
自然と日向を撫でる手も震えてしまい、日向に気付かれないように撫でるのをやめ手をゆっくりと下ろした。
日向は私の様子に気付くことなく、続きを話した。
「小夜ちゃんの家族なら自分の家族も同然だって言ってくれて、何をするか分からないけど私のこと守ってくれるって。
最初は怖そうな目つきしてて話しづらかったけど、小夜ちゃんの話したくさんしてくれてすごくいい人だね」
私にそんなこと一言も言ってなかった。
それどころか日向にまで手を伸ばそうとしている。
沸々と沸き上がる、怒りを越えた殺意。
どうして私の大切な人にまで踏み込んでくるの。
やめて。
日向(この子)は私の唯一の光なんだから。
その光を消そうとするのなら……私は絶対に許さない。
どんな手を使ってでもその影を消し去ってやる。
「…小夜ちゃん?どこいくの!?小夜ちゃん…!」
日向が止めようと伸ばした手を握ることなく、私は早足で病室を出た。