あなたのために。-光と影-
【side 楓】
「……うっ、……ふ、……」
寝室のドアの鍵を閉めると微かに聞こえてきた泣き声。
声を漏らさないように堪えているようだが、確かに聞こえる泣き声に耳を澄ましながらスマホで電話をかける。
相手は忙しいくせにすぐに電話に出た。
「…俺だ。白兎のせいで怪我人が出た。すぐに来い」
用件だけ言うと電話を切る。
「…小夜!」
「おい、待て!」
今まで静かだった紅蓮総長が暴れて風間の拘束から逃れ、寝室へと走り寄る。
「…お前にはまだ話がある。
勝手なことすればあいつもお前も仲間も生きれると思うな」
一つに束ねてある赤髪を引っ張る。
小夜以外の女なんて触りたくねぇのに。
「…あんたの組に属してやる。
あんたの命令も聞いてやるし、あんたらの邪魔はしないと誓う。
でもね、あんたらのことは信頼した訳じゃないし、当然許してないから。
あたし等はあたし等のやり方で小夜と日向を守っていく」
紅蓮の総長はそれだけ俺を睨みながら言うと、部屋を出ていった。
顎で風間に後を追うように指示すれば、風間は俺たちに一礼して部屋を出ていった。
この俺を睨む女は珍しい。
どの女も嫌いだが、あいつが率いる族なら頼もしい奴がいそうだ。
「めっずらしい~。楓が女と会話してるなんて!
小夜ちゃんと華代と姐さん以外としか話したことないのに」
「陽、その不吉な名前を言うな。
噂をしてるとあいつが来る」
陽が挙げた名前に白兎は苦笑いをしている。
そいつがこれから来るということも知らずに。