あなたのために。-光と影-
「だぁ~れが不吉な名前だってぇ~?」
開いた部屋ので入り口から聞こえてきた声の方を向けば、噂をしていた女が立っていた。
視界の端で白兎が後退ったのが分かって口角が上がる。
茶髪のショートで、毛先を僅かに赤く染めている華代(はなよ)は救急セットを一式持ったまま俺の横を通り越して白兎へ早足で向かう。
そして次の瞬間には華代の拳骨が白兎の頭に思いっきり入った。
「いって!いきなり何すんだよ!」
「何ってか弱い子に怪我させた自分の旦那に、お仕置きしてんのよ!
ほんっとにあんたは加減ってのを知らないんだから困るわ!」
華代の言葉に何も言えなくなった白兎を見て、これほどまでに愉快な気持ちはない。
陽も堪えきれずに大爆笑している。
反省してる様子の白兎を見てから、華代はこっちにやって来た。
「怪我したのって楓の例の子でしょ?どこにいるの?」
「…ここだ」
背中を預けていたドアから離れて、ドアの鍵を開ける。
迷わずにドアを開けると、そこには手首を押さえながら動かない小夜がいた。
小夜は規則的な呼吸をして眠っていた。
頬には涙の跡が残っている。