あなたのために。-光と影-




ふっ




奴の腕の中で泣いていれば、頭上から奴が笑みを零したのが聞こえた。




笑っていても私の頭から背骨のラインをなぞるようにして撫でる手は止まらない。
何がおかしいんだと顔を上げて睨めば、予想通り奴は笑っていた。




「前のお前なら『早く自分を殺せ』と言っていたのに、
今のお前は『自分を殺さないで』と言った。
お前が変わったのなら、それでいい」




奴に言われて気付いた。




今までの私は誰かに殺してもらうことを考えていた。
この汚れた人生から世界から早く消えたかったから。




でも今は違う。
死を目前にすると思い浮かぶのは奴の言葉と守りたい人と大切な居場所。




『大切なものを守って死ぬなら、誇れ。
だが大切なものを残して死ぬなら、恨まれろ』




日向。
私の一筋の光であり、唯一の大切な家族。




環、そして紅蓮のみんな。
一緒になって笑って騒げる、唯一の大切な居場所。




私には守りたい人が、大切にしたい居場所がある。
それらを守り抜くまでは死ぬことはできない。




そう思うと自ら死のうだなんて考えなくなった。




私がこうして変わったのは奴と出会ってからかもしれない。




最初は復讐相手として奴に毒を盛って殺そうとしていたのに、それが今は奴の妻として奴の隣に並んでいる。




憎き復讐相手の妻だなんて苦痛しか感じなかったのにどうしてだろう、奴の隣が居心地よくなっている。




もっと奴の隣にいたい、私の傍にいて欲しい…今までに感じたことのないこの気持ちは何?




奴に抱き締められて自然に高鳴る胸の鼓動は何故?



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