あなたのために。-光と影-
「……っ!これ……!」
「使うかどうかはお前次第だ。
俺はお前が使うことに反対も止めることもしねぇ」
そんなこと言ったって、仮にも楓と奴とは血の繋がった家族のはず。
どうしてそう躊躇わずにこういうものを渡せるの?
「極道に家族なんて関係ねぇ。
小夜に殺されたんならそこまでの弱者だっただけ、それだけだ」
「………」
車の中で流れる景色を見ながら楓が言ったことを思い出す。
この町並みを見たのは久しぶりだ、なんて呑気なこと考えられなかった。
これから会うのは会いたくて、そして殺したくてたまらない人物。
それなのにどうして未だに手の震えが止まらないんだろう。
私の望みだったはず、奴を殺すことが。
そのために自分を汚してここまで登りつめて来たはずなのに。
震える手を隠すように力強く握ると車は目的地の清蓮に到着した。
車のドアが開いて隣にいた楓が降りると、楓は振り向いて私に手を差し伸べる。