あなたのために。-光と影-
楓はとある一室の前で止まり、私もつられて立ち止まる。
部屋の前にいた黒スーツの男が見えるわけないのに部屋に向かって一礼した。
「親父、若が到着しやした」
「……入れ」
その声を聞いただけで全身が殺意で震えた。
何度この声に近付いて、復讐してやろうと思ったことか。
何度この声に私の幸せすべてを奪われたと泣いたことか。
やっと、やっと私の願いが叶う。
なのにどうしてこの手は震えているの?
「…っ!」
私の震える手を包み込む奴の手がこの時だけとても心強く感じたのは、何故?
私の表情を見なくても、私の感情を読み取って行動する楓(こいつ)が嫌いだ。
何でもお見通しって言われてるみたいで、腹立つ。
腹が立つのに奴に手を握られたことで、自然と震えは治まっていた。
そして楓は部屋の戸を開けた。