あなたのために。-光と影-
陽くんは心底喜んでいるようだ。
そんな陽くんにソファに座り、目線を合わせる。
「本格的なのは作れないけど、少しは作れるの。下っ端の頃よく作らされたから」
チラッと真姫と梓を見る。
私が下っ端の頃、よくあいつらに酒作って来いとコキ使われたことがよくあった。
それを覚えていたのか真姫と梓は顔を青くして下を向いた。
「お酒を作れるホステスとはまたすごいですね。楓、君も作ってもらったら?」
白兎さんはニコリと笑って奴を見た。
奴は終始不機嫌そうだったが、「…好きにしろ」と呟いた。
きた、この時が。
「それでは蓮条様のも下手ではありますが作ってきます」
陽くんは「待ってるねー!!」と言って出て行く私に手を振る。
私は控え目に手を振り返し、VIPルームを後にする。
これこそが私の計画。
忙しくなったスタッフに変わり、作れる私が酒を作る。
中には誰もいないことを確認し、早足でカウンターの奥の部屋に入る。
この日のために環と練習したカクテルの王様、マティーニを作り始める。
ジンとベルモットを入れて、出来上がったものをカクテルグラスに注ぐ。
陽くんと奴と二人分。
二人のカクテルグラスにオリーブを入れる。
陽くんのカクテルはこれで完成。
奴のには…