あなたのために。-光と影-
私の答えを待っていたかのように奴はニヤリと歯を出して笑い、私の手首を掴んで前を歩いていく。
私の手を引いて奴はVIPルームの入り口に立つ。
「おい、楓!どこ行ってたんだよー女達がこっちに来て…って黒百合ちゃん?酒持って来てくれたの!?」
奴の後ろにいた私に気づいた陽くんは、待っていましたと言うばかりの笑顔を見せた。
環は私が失敗したと気づいたのか、目を見開いて見ている。
「…あいつもグルか?」
「…っ!」
驚いた環を見て気付いたのか、奴は小声で私に囁いた。
これ以上環を危険に巻き込む訳にはいかない。
ただでさえ命懸けでこの計画に乗ってくれたのに、これ以上巻き込んだら確実に環は殺される。
それだけは守らないと。
「私1人でやったことだから、あの子は関係ない」
環には死んだら悲しむ仲間がいる。
だから犠牲になるのは私だけでいい。
嘘だとバレないように無表情の顔をつくる。
奴はそれを信用したのか、ふんと鼻を鳴らした。
「…陽、今日は終いだ。こいつの酒はまた今度いつでも呑める」
それだけ言って奴は私を引っ張って部屋を出る。
陽くんは「えー!またっていつだよー!!」とかなりご機嫌斜めだ。