あなたのために。-光と影-
奴を起こさないようにベッドから出て、汗でベタついた身体を洗うため浴室を暗闇の中、手探りで探す。
浴室を借りてシャワーを浴びる。
着替えとして鞄に入れていた、黒のワイシャツとジーンズに着替える。
シャワーを浴び終えて部屋に戻ると外が少し明るくなっていた。
さっさと帰ろう。
ここは長居する場所じゃない。
着ていたドレスやらを鞄の中に詰め込んだ。
いつの間にか耳から外れていた黒百合のピアスを耳につける。
これはあの子から貰った大切なピアスだから、鞄の中に適当に入れて失くす訳にはいかない。
帰る準備を整えて、一息つく。
後は奴の頭上にある札束を貰ってここを出るだけ。
それなのに異様に緊張してるのは何故だろう。
素早くお金を取って、足早に出て行けばいいだけの話なのに。
いつもこうして情事の終わった後はすぐにお金を貰って帰っていたから慣れている筈なのに。
何だか怖い。
受け取ったら何かあるんじゃないかと考えてしまう。
大丈夫、奴の条件は私を抱くこと。
何回も抱いたのだから、満足だろう。
だから奴は爆睡している。
大丈夫、何も起きやしない。
そう自分に言い聞かせて、私は奴の頭上にある札束に手を伸ばした。