あなたのために。-光と影-
ママと話していると外が騒がしくなってきた。
「あ、どうやら開店したみたいだよ。すぐ呼ばれるんじゃない」
フロアスタッフが来ることを予想して、環は携帯灰皿に煙草を押し付ける。
環の予想は見事に当たり、若いボーイがメイク室に顔を出した。
「"黒百合"さん、ご予約の田中さんがお見えです」
ボーイに呼ばれ、ふと黒百合のネックレスに触れる。
何も言わずにもう一度ママに抱きつく。
「ママ、いってくるね」
そう言ってママを思いっきり抱き締める。
ほぼ毎日この繰り返し。
だからママから返ってくる言葉も決まってる。
「行っといで。私の自慢の黒百合」
ママには額に優しくキスをされ、
バシッ!
環は何も言わずに思いっきり背中を叩く。
赤く手の跡がつくほど強く。
そう、私はこの店「胡蝶」No.1ホステス。
名前は黒百合。
黒百合は私の好きな花。
グラブ「胡蝶」はこの繁華街で最も大きいと言ってもいいほどの店。
その店のNo.1はこの繁華街のホステスのNo.1のようなもの。
つまり絶対的存在。
前にNo.1だったホステスも降格すればNo.1に従わなければいけない。