あなたのために。-光と影-
「…私はずっとこんなとこにいられないんです」
睨むようにして白兎さんを見つめる。
それに怯む様子もなく、白兎さんはふっと笑っている。
そんな白兎さんが怖くてゆっくりと後ろに後ずさる。
白兎さんもゆっくりとこっちに近づいてくる。
私が一歩後ろに下がれば、白兎さんは一歩私に近づいてくる。
沈黙の中、それを繰り返す。
そして白兎さんの口から予想もしなかった言葉が。
「…ではここから逃がして差し上げましょうか?」
「…え?」
予想外の言葉に思わず声が出てしまった。
今、逃がすって言った?
私を逃がしてくれるの?
極道の若頭の右腕が私を逃がす?
白兎さんのあの笑顔の裏には何があるのか分からない。
私を期待させるだけの嘘かもしれない。
でもその言葉に私の心が軽くなったのは事実だった。