あなたのために。-光と影-
ドン
私の背中が硬い柱のようなものに当たった。
…これは柱じゃない。
私の全体を覆う影が柱ではなく、人の影だったから。
振り向かなくても、誰なのか分かってしまった。
それでも振り向かないわけにはいかなくて、私は恐る恐る後ろを振り返る。
そこには決して会ってはならない、二度と顔も見たくない奴の顔があった。
蓮条…楓…
どうしてここに!?
まさかもう仕事が終わって帰ってきてたの!?
勢いよく前を向く。
白兎さんは眼鏡を押し上げて笑っている。
まさか後ろに奴がいたのを知っていて、敢えて逃がすなんてことを言ったの?
白兎さんの言葉には裏があるとは思っていたけど、こんな結末までは考えていなかった。
白兎さんはこうなると想定済みで、態と私に期待をさせた。
逃がしてやると。
奴を見た瞬間、私の中には絶望が広がった。
暗くて黒い何かが私の中を侵食していく。
いきなり後ろにいた奴に手首を掴まれた。
私は我に返って後ろを振り返る。
奴はいつも以上に目を鋭くして私を見下ろしている。