あなたのために。-光と影-
「…逃げるのか?この俺から」
切れ長の目には私が写っている。
奴がこんなに怖いなんて感じたのは初めてだ。
掴まれた手首が痛い。
振り払おうとしても身体が震えて言うことを聞かない。
私の身体が小刻みに震えていても、奴は苛立ちを隠せずに私を見つめる。
「言った筈だ。俺はお前を離す気はないし、帰す気もない。逃げようとすればどうなるのか」
奴は言った。
私が逃げようとすればこの赤い跡が増えると。
奴の目を見ると忌々しいあいつと重なった。
私を最初に汚したあいつ。
口は笑っていても目が鋭くて決して笑っていないあいつの目。
やめて…
こんな時に出てこないでよ、
私はもうあなたなんて忘れた筈なのに。
そして止めとでも言うかのように脳裏に流れるあいつの声。
『…俺から逃げるのか?…』
やだ、やだやだやだやだやだやだ!
来ないで!!