君に物語を聞かせよう
「やだ、蓮。すごいじゃない。こうなっためぐるが大人しく眠っちゃうなんて初めてよ!」


彼女の母が興奮したように俺の背中をばしばしと叩き、褒めた。

父が「助かったよー。蓮、すごいなあ」と嬉しそうに礼を言った。
泣き喚く彼女の傍でおろおろとするばかりだったおばあちゃんが「蓮くんは天才だねえ」と頭を撫でてくれた。


しかし俺はそんなことよりも、楽しそうなめぐるの寝顔を眺めている方が、嬉しかった。
何だよ、こいつ、俺の話で寝てやんの。
にやにやしながら寝ちゃってさ。さっきまであんなに泣いてたくせに。
あんなに怖がってたくせに。
笑ってやんの。
バッカだなあ。

みんなに見つめられている事にも気づかない彼女は、幸福そうに頬を緩ませて、「えへへぇ」と笑い声を洩らした。

そのあくる日の夜。
めぐるは俺に言った。


「お話、して!」


カエルのぬいぐるみを宝物のようにぎゅうっと抱きしめた彼女は、びっくりした俺の目の前でもう一度言った。


「きのうのお話、して!」


うそだろ?
だって、全然面白い話じゃなかった。

だけど、めぐるは俺に重ねて言う。


「れんのお話ききたいの!」

「本気で言ってんの?」

「うん!」


その晩、めぐるはやっぱり幸せそうに眠りに落ちた。


杯根めぐる。

俺の妹だった。
妹同然の子だった。

この子が、俺を「坂城蓮」に育ててくれた。
こんな、幼い頃から。
俺が生きるべき道は、彼女が指し示してくれた。


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