陰陽師見習いやってます!
プロローグ

蛍が飛び交う夜のことです。
とある男女がいました。
男は女に背を向けて、女はそんな男の背をただただ眺めていました。

「もう、行ってしまわれるのですね?」

女が言いました。

「ああ、すまないな」

女の言葉に、男は申し訳なさそうに言いました。
女は男の言葉に静かに首を振ると、そっと男の背中に寄り添います。
男はそんな女の行動にすこし驚きながらも何も言わずに受け入れました。

「……かわいい女はここであなたの事を引き止めるのでしょうが、残念ながら私は性格が悪いので引き止めません」

女はきゅっと男の服を軽く握ります。
男は何も言いません。
男と女はしばらくそのまま、寄り添っていました。
それは長いようで短い時間……女はしばらくするとスっと自ら男から離れました。

「……行ってらっしゃいませ、晴明様」

女は流れるような動作で男に頭を下げる。
その声はすこし震えています。

「……ああ、元気でな」

男は女を一度も見ずに、歩き出しました。
男はしばらく歩くと、スゥっとまるでその場にいなかったとでも言うように、
その場から消えてしまいました。

女はそんな男の様子をみて、泣き崩れました。

「……あぁ、行かないで……行かないでくださいまし晴明様っ……!」

うぅっと声を押し殺し泣く女の姿は、
それはそれは痛々しいものでした。

女の本音は、女の周りを何も知らずに飛び回る蛍にしか届きませんでした―――




―――とある、夏の夜のことでした――
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