僕らの秘密
僕だけの知る彼女の美しさ
「全然、面白くない。やり直し」

抑揚のない声でそう切り捨てると、彼女は顔色一つ変えずまたパソコンと向き直った。

「うっ…」

彼女に原稿をつき返された契約社員の若い女の子は、人目もはばからずその場で泣き出してしまった。無理もない。やり直しは、これでもう十回目。それも、毎度同じ台詞で原稿をつき返されているのだから、そりゃ、泣きたくもなるだろう。

僕の勤める広告代理店では月に一度タウン誌を発行している。地元ではわりと有名な雑誌で、隠れ家的なお店の情報や、デートスポット特集や、サロンのクーポン券が満載でそこそこ人気がある。地域情報誌ながらライターの筆力の高いのも評判だ。
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