大っ嫌いにさよならを


 鬼の目にも涙、という言葉がある。

 俺の解釈を言えば、あんないかつい鬼が涙流したら改心して良い奴になったんじゃないかと思う人は多い。

 だけど、根は鬼なのだ。その人の隙をついて悪さをしてしまう鬼がいてもなんら可笑しくない。

 俺の心が揺らいだのも、そういう隙だったに過ぎない。

 放課後、さぁ!これから帰ってゲームでもしようかと浮き足立った俺の目の先には、見慣れない制服を着た女子高生。

 あの潤んだ瞳は何だったのか。すました顔で校門に立つあいつは、部活動に勤しもうとする、あるいは帰宅部男子の目線を釘付けにしているではないか。

 天津茉莉奈が本校の生徒ではないのに、誰かを待ち伏せするかのように校門に立っていた。

 俺にはそれが仁王立ちする仁王にしか見えない。(一人しかいないが)

 俺はしばらく動けずにいたが、頭の中でひとつの決断をくだす。

 ――…逃げるが勝ちだ。

 そう思って方向転換しようとした矢先、あいつは俺を見つけると本校の生徒でないにも関わらず、すたすたと、さも当たり前のように向かってきた。

 こうなりゃ、意地でも捕まってやるもんか!と俺は走り出した。

 しかし、俺は愚かにも忘れていたのだ。茉莉奈に徒競走で勝った試しがないことを…。

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