大っ嫌いにさよならを
グロスを塗っているのか、ぷるぷるした唇に目がいく。
うーん、まだ慣れないな。きっと小学生の頃のインパクトが強すぎるんだ。
化粧っ気なんてなかった子供を急に大人にさせたような不思議な感覚を持った。
…少しだけ、寂しい気持ちになった。
だからだろう。俺は傍らに置かれていた紙を取ると茉莉奈の唇のグロスを拭き取っていた。
「えっ…翔?」
戸惑っている茉莉奈に気づいて、俺は急いで手を引っ込めた。
「いや、ごめん。お前が化粧してるって、何か違和感あって」
「何よ、それ」
うつむいた茉莉奈が中学一年の時と重なった。
そういえば、あの時も俺の言葉に茉莉奈は怒りながらうつむいていた。俺も怒っていたから、こいつの表情なんて気にもしてなかったな。
「あ、あのさ」
遠慮がちに声をだして顔を上げた茉莉奈に俺は身構えた。次は何を仕掛けてくる?
「…翔さ、彼女とかいるの?」
またも「は?」と聞き返すだけで俺の喉はカラカラに渇いていて、不安そうに揺れる大きな目を見つめながら言葉をつまらせた。