大っ嫌いにさよならを


 四年が経っても、俺は未だにあの事の発端を鮮明に覚えている。

 蝉の声が知らない内にうるさくなってた夏。中学生になって初めての夏休みが近づいている頃だ。

 昼休みだった。俺の所にあいつは来た。

「翔、ちょっといい?」

 俺の返事を待たずに腕を引っ張るあいつに、連れ出されるまま廊下に出た。

 そして、何事かと思って茉莉奈の言葉を待っていた俺に、言ったのだ。

「…好きな人とか、いるの?」

 俺はその時の、茉莉奈の不安そうな表情と普段にないか細い声を忘れられない。

 期待、していたのかもしれない。こいつは、俺の事が好きなのかもしれないと。

 …けど、違ったのだ。

「――ちゃんの事、どう思ってる?」





「…彼女はいないけど、好きな女の子ならいる」

 ほとんど無意識に答えていた。俺もつくづくガキだなと思った。

 あの時、茉莉奈は俺の事なんか好きでも何でもなくて、友達の恋のキューピッドになろうとしていた。

 もちろん、それはその後に起こった事件のおかげというべきか消え去った。

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