大っ嫌いにさよならを
そこに、意地の悪い笑顔を浮かべる茉莉奈はいなかった。
ただ俯きがちに、頬を赤く染めて微笑む茉莉奈がいた。
俺のよく知る天津茉莉奈だった。
笑うことで丸みのある頬が見えて、俺の中にずっと悪い意味でも良い意味でも居座り続けた面影と重なった。
純粋に、可愛いと思った。
だから嫌なんだ。こいつは出会った時から俺を翻弄させてばかりいる。
そうやって、俺を腹立たせる。
「翔っ?どこ行くの!?」
俺は勢いよく立ち上がって、鞄を手に取った。
「もう俺の所に来るなよ!迷惑だっ…俺をからかうのもいい加減にしろ!」
店の中に居た全員が俺に視線を向けるのも関係なしに、大声を出して俺は逃げた。
俺と茉莉奈は、小学生の頃みたいな関係には戻れない。
毎日、毎日、ただ無鉄砲に馬鹿して楽しんで遊んでいたあの頃には。
今の茉莉奈は、俺をめちゃくちゃにする。知らない自分には会わない方が良いんだ。その自分に会った時、俺はまた元に戻れない道を作ってしまう。
…大っ嫌いなままの方が良いんだ。