大っ嫌いにさよならを
止まっていた足を動かし、前を向く。公園を覆い隠すように立つ木々の葉っぱが、風に揺れてカサカサと物寂しく乾いた音をたてていた。
俺はのんびり歩いていき、公園と斜向かいの、庭に金木犀が植えられている家を曲がった。
微かに鼻をくすぐる金木犀の甘い香りに思わず相好を崩す。ああ、良い匂いだな、と秋らしさを感じた。
そうして、何回通ったか分からないぐらい歩きなれた道を欠伸まじりに歩く。
すると、前から歩いてくる人の姿が視界に入った。何気なしにそいつを見る。
俺と同じ年ぐらいの女子だ。制服を見れば、俺が通う高校と比べものにならないほどレベルが違う進学校のものだとすぐに分かった。
そんな頭の良い奴の知り合いは俺にはいない…はずだが、近づいてくる毎に違和感のようなものを感じて、知らず凝視していると、相手も俺に気づいて目が合った。
その瞬間、俺の足は動かなくなっていた。息をするのも忘れて、ただ、そいつを見返していた。
「――…翔?」
俺の名前を呼んだそいつも、目を丸くさせて驚いている。
…あいつ、なのか?でも、俺の記憶の中で覚えているあいつは、ちびでまん丸とした体型だったはず。それに、いつも寝癖のままのような髪型をしていた。
目の前にいるやつは、それをほぼ覆すような容姿だった。
それでも間違いなく、あいつだ。
―――…茉莉奈だ。