大っ嫌いにさよならを
校門まで来て、俺は周りを確認する。
…あいつの姿はなかった。
まぁ、そんくらいの気持ちだったという事か。こんな俺に本気で惚れる女がいるとも思えないけど。
たとえ、居たとしても会えない確率は限りなく0に近い。
俺は両手を頭の後ろで組んで空を見上げた。頭上にひろがる電線をたどって歩いてみる。
前にも、こうやって学校からの帰り道に電線をたどって帰ったことがあった。
やっぱりだけど、その提案をして一緒に帰ったのは茉莉奈だ。
*
春の、まだ肌寒い帰り道、茉莉奈は淡いカーディガンをひらひらさせて俺の斜め前を歩いていた。
その背中は、小学三年になってもランドセルのほうが縦幅があるのではと思うほどだった。
茉莉奈は歩いていた足を突然止めて、上を見上げた。俺もつられて見上げたが、そこには何もない。あるのは電信柱につなげられた黒い線だ。
「翔!今日はこの黒い線をたどって帰ろう!」
「え?あ、うん、分かった」
世の小学生が経験したことがあるのではないかと思う。道路にある歩道を示す白線を綱渡りの要領で歩くアレ。
それに飽きた俺たちは、頭上にある黒い線をたどっていこうというのだ。