大っ嫌いにさよならを
お調子者というより、何か企みがあるようなその笑顔に俺は少なからず動揺してしまった。
そのため、のぶ丸は俺の返事を聞かずとも分かったらしく、乗り出した体を元に戻して俺のコップを取り、その水をまた飲み干した。
「…可愛いかったな、あの子。名前なんて言うの?」
「し、知らねーよ、そんな奴。何で、そんな事俺に聞くんだ」
俺はカラカラに渇いた喉を潤す水を失い、しどろもどろに答える。助けを求めるように将を見ても、無表情に座っているだけだった。
早くここから立ち去りたい気持ちが焦りとなり、背中に嫌な汗が流れる。
「ふーん?ま、それなら良いけどさ。もしあの子の彼氏なら警告してやろうと思って」
立ち上がりかけていた俺の耳に届いた不穏な言葉に反応すると、のぶ丸は笑顔のまま首を傾げた。
「翔や将も知ってるだろうけどさ、元バスケ部三年の何とかっていう先輩が、その子を見かけたらしいんだ。それで、今度会ったら声かけようか、なんて話してるの聞いたわけ」
あくまで、どうでもいい世間話をしているように話すのぶ丸。やけに楽しそうに笑っている。
「その先輩の名前は忘れたんだけど、たしか良い噂は聞かない人だったと思う。特に、女の子との噂は…ね」