大っ嫌いにさよならを
俺がうんうん頷くと鉄之助は「懐かしいなぁ」と腕を組んで呟いた。
「中学ん時は、今より楽しかったよな。バスケ部は新入生が入る度、部員が増えたし、練習も充実しててさ」
しみじみ言う鉄之助に横から「じじぃかよ」と将がぼそっと言った。
またも将に噛みつこうとする鉄之助。将は煩わしいと言わんばかりに顔をしかめさせて、眼鏡のブリッジを上げた。
「それで…天津に“また”何か言われたのか?」
俺に向けられた将の表情はどういうわけか愉しげで、このシニカル野郎め、と思った。
鉄之助と将と俺は中学が同じで、もちろんあの大喧嘩の顛末を知っているやつらでもある。
「いや、それがさ、すっかり高校デビューしてて、今時の女子高生だよ。まん丸だったのがスレンダーになって、いつもボサボサだった髪も茶髪になってて!」
「茉莉奈がスレンダー!?想像つかねぇ…」
鉄之助が口を開けて、間抜けな顔で呟くように言った。
「化粧なんかもしてたからさ、初めは誰か分かんなかったんだぜ?」
俺はなんでもっと早く、気づけなかったのか。あの制服を着て嫌みなほど頭良い進学校に行く茉莉奈を、悔しがってたのは俺だったのに。
「…それってさ、翔」
いくらかトーンダウンして話す将に目を向ける。なぜか、今までにないほど愉しげだ。もはやシニカル顔になっていた。