大っ嫌いにさよならを


 “ 私、翔が好きなの。付き合って ”

 俺は「は?」と聞き返すだけで喉がカラカラに渇いていた。

 予想もしてなかったのだ。まさか、あいつからの告白なんて。絶対に有り得ない事だったのだ。

 しかも、俺とあいつは言葉を交わすのも目を合わすのでさえ、あの日以来だ。

 だから、俺はテンパってしまった。普通ならイエスかノーか、答えるべきだったろう。それでなくとも何故?という理由を聞くだろう。

 …そう。俺は何も言わず、逃げたのだ。

 こうやって自分の行動を振り返っても、馬鹿な事をしたと悔やむばかりである。

 そもそも、あれが本気であったかなんて一目瞭然ではないか。あれは完全に俺をからかっていたんだ。

 俺と同じく馬鹿で、勉強よりも遊んでいることが好きだった茉莉奈が、あんな頭の良い学校に行って、俺は変わらず馬鹿のままで。…それを見下しているに決まってる。

 そのはず、なんだ。いや、絶対そうだ。俺は茉莉奈が嫌いで、茉莉奈も俺が嫌い。

 …ちょっと、可愛くなってたから心が揺らいでいる気もするが、それは勘違いであってほしい。

 あの潤んだ瞳に、俺は大きく動揺しているだけなんだ。

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