あいつが好きな、私の匂い

迷惑な顔する私に気付いているくせに、大悟は週に何回か夕飯をたかりにくる。




私は、この大悟のことが苦手だ。




三人姉弟の長女として生まれ、優等生であることだけが取り得だったわたしは小さいころからずっと「しっかりもののお姉ちゃん」という役割を家でも学校でも押し付けられてきた。

でも本当は、勉強が出来なくてもだらしがなくても両親から溺愛され甘やかされていた弟や妹を見て、ずっと羨ましいと思い続けていた。

その気持ちをうまく消化できないまま大人になってしまった今も、弟たちのようなタイプの人間を見ると屈折した気持ちを抱いてしまう。



簡単にひとの懐に入り込み、ひとの心をくすぐる甘言をさらりと吐いてしまえて、結果ごく自然に自分の欲求や我侭を受け入れてもらえる、器用で愛され上手な末っ子気質の人間。

おまけに誰からも好感を持たれるようなルックスまで備えているなんてズルすぎる。



「友達のおねえちゃん」という殆ど他人みたいな存在の女にまで厚かましく甘えることが出来るなんて、自分のルックスと価値に熟知していて、そうすることが許されるという自負があるからなのだろう。



5歳も年下のガキに自分の住まいを食堂代わりにされていることにはムカつくし、まるで「勘違いするな」と釘を刺すようにときどき恋愛相談と称して自分が彼女持ちであることをアピールしてくるところもまた腹が立つ。


さっさと彼氏作って、こっちもそんな気これっぽっちもないのに自意識過剰なんじゃない?って予防線を張ってくる大悟をあざわらってやりたい。でもこういうときに限って恋の予感とは縁がなかった。





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