あいつが好きな、私の匂い
「ごっそーさま」
3杯もおかわりした後、大悟がきっちり両手を合わせた。
いつも食べ終わった後は私が流しにためっぱなしにしていた食器ごと洗っておいてくれる。実家で祖父母も含めた8人家族で暮らしているという大悟は、華やかな見た目に反して育ちのよさが感じられるところがあった。
ただの遠慮を知らない馬鹿ではなく、意外によく気の付く男なのだ。そういう目端のきくところがいかにも末っ子らしかった。
「なー。理沙ねえ。『笑わナイト』つけていい?」
「あんたね。いつまで居座るつもりなの」
皿洗いを終えて定位置のベッドに腰を下ろすと、大悟は勝手にチャンネルを変える。ほんとに自分中心なやつだなと半分諦めつつも、あくびを噛み殺していると背後から視線を感じた。
「……なによ」
振り返ると大悟がじっと私を見詰めていた。ほんのひととき、無言のまま視線が重なる。
「おつかれ」
頭のてっぺんに、ぽすんと大きくてあたたかいものが落ちてきた。男っぽくて無骨な手。お馴染みのそれが、ゆっくりと頭を撫でてくる。
感触を確かめるように触れてくるその手に成されるがままになっていると、不意に大悟は手を止めて今はじめて気付いたかのように言った。
「そういや、前から思ってたけど。理沙ねえもいつもなんかいい匂いするよな」
---------これだから嫌なんだ。
自分の容姿にも行為にも無自覚な男は。ときどき全部見透かされてる気分になる。
「……早く帰りなさいよ」
たまらない気持ちで大悟の視線を避けるように俯いた。